284話 月曜日朝 

 

 ふつうの釣り人は、釣りを週末限定の楽しい趣味ととらえている。なにかと慌ただしい月曜日の仕事前に釣りに出かける人はほとんどいない。私は日本最北の街にかれこれ30年も暮らしていて、職業人生はまだ終わっていないが、釣りも日常の「仕事」なので、月曜日の朝に竿をふることは、ごくふつうなのである。

 この日も月曜日だったが、5時前には出発して、すぐホームリバーに着いた。気温6℃、風はない。川はこの朝は潮回りがわるく、干潮の底のように減水している。餌魚はたくさんいるはずだが、水面からは見えない。

 週末には釣り人でにぎわっていた川だが、月曜日には、対岸に2人の姿が見えるだけだ。私はいつもの釣座に到着し、まずは水温を測る。11.1℃と悪くない。

二本竿をつなぎ、ラインを点検し、ルアーをなぜが思いつきでメタルバイブに付け替えた。まずは釣りの神様に「頼みますよ」とお願いする。そして上流方向と下流方向に交互にキャストしては、リトリーブする。なにも起きない。しかしそれがふつうなのである。

 空は徐々に晴れてきた。いつものトンビが飛んできて私の近くを悠然と旋回する。イトウが見えるのなら教えてほしいのだが、たぶん見えないのだろう。行ってしまった。川面にライズやボイルは見かけない。

 朝は1時間まったくなにも起きなかったら、竿をたたんで帰ることにしている。まもなくその時間になろうとしていた。その時だ。私の上流側10メートルの岸辺のクマササの下で大きなライズリングが生まれ、モワーと沖合に拡散していった。イトウはいるのだ。おそらくイトヨの群れを探して回遊しているやつなのだ。

 私はそこではなく、下流にルアーを投げこんで、ゆっくりゆっくりと、川底をイメージして根掛かりしない程度で引いてきた。あと2メートルでピックアップするその刹那、ズドーンと食いついた。下流から襲ったイトウは、私の前を通過して上流へと疾走した。リールのドラグが少し気になったが、いじらないで成り行きに任せることにした。やがてイトウは沖合に遠ざかり、ジジジーと控えめにラインを引きずり出した。私の11フィート竿は、大きく半月にしなる。この弧の形が好きだ。しなりながら、なんどかお辞儀をして、その都度トルクを伝えてくる。イトウ釣り師の醍醐味を感じる瞬間だ。イトウは岸際と沖合を往復したが、少しづつ疲れてついに浮上した。それを見届けた私は、タモを持ち出し、左手にタモ、右手にロッドの態勢で、タイミングを計り、水面にイトウを滑らせるようにネットインした。

 ことし7匹目になる良型は、90㎝ジャスト、体重8.4㎏のなかなかのプロポーションのオスであった。「さてどうやって抱っこ写真を撮ろうか?」と思案しているところへ、対岸で見ていた知人がわざわざ来てくれて、撮影してくれた。本波幸一さんを介して知り合った人で、長野からの遠来の釣り客だ。

 毎年、私は大物イトウを狙っているわけではなく、どちらかというと数をそろえることに主眼を置いている。それでも90㎝級は1匹くらいほしいと思っている。それがシーズン当初に出たことで、ホッとした。56月の黄金期にこれを上回る大魚がいずれ来るはずだ。またキャッチできればうれしい。