214話  同窓会


 2012年の秋には、ちょっと変わった同窓会がふたつあった。ひとつは、第28次南極観測隊の25年ぶりの同窓会であり、もうひとつは北大スキー部100年・山スキー部50年の祝賀会であった。

年齢が60歳をすぎると急に同窓会のたぐいの回数が増える。その理由のひとつは定年退職して暇になり人恋しくなること。もうひとつは同窓会を頻繁にやらないと恩師が他界したり、同窓会のメンバーが欠け始めるからである。

 小中高等学校の同窓会となると、もうあまりにも時間がたちすぎ、しかも郷里を離れているのでつきあいも少なく、参加することに躊躇してしまう。大学となると私の場合は、同窓生はすべて医者なので、同業で新鮮味がなく、おもしろくもない。ところが、上記のような団体の同窓会は、多種多様な職業人の集団であり、同志ともいえる強固な連帯感があるので、集まるとじつに楽しく盛り上がる。

 どちらの会でも、「どうだ、ことしのイトウ釣りは」となんども聞かれた。その理由は、私が毎年の年賀状をイトウの抱っこ写真に決めているからだ。イトウをイワナとまちがえて、「さすがに北海道のイワナはでかいな」という御仁もいる。いちいち説明するのも面倒なので、「イトウもイワナもでかい」と言っておく。

 なかには「イトウを釣らせてくれ」という者もいるが、酒の勢いで面倒なことを言われて、親身になるほど私はお人よしではない。「無理無理」と言って逃げる。イトウ釣りは、一朝一夕で手が届くほど簡単な釣りではないので、弟子などを取っていたら、自分が打ち込んでいる釣りをやる時間がなくなってしまう。

 ところが、おもわぬ収穫もあった。南極の仲間で、長野県伊那市に住んでいる男が、テンカラをやっているという。テンカラで尺イワナを釣るおもしろさを、技術論も含めて説明されると、「おれもやってみたい」という気になる。イトウをテンカラで釣った釣り師はいるのだろうか。

 山スキー部の懇親会では、妙齢の美女から「その節はお世話になりました」と話しかけられた。ハテ?とおもったら、むかしラジオ放送局でイトウについてしゃべったときの担当アナウンサーであった。長いあいだイトウを追いかけて、イトウの会を運営していると、ちょっと華やかな思い出もあるものだ。

 同窓会というと歌がつきものなのである。学校の同窓会といえば、当然ながら校歌や応援歌がある。北大関係の同窓会のフィナーレには、かならず明治45年度寮歌「都ぞ弥生」の大合唱がある。

南極観測隊にも歌はある。作詞作曲の本格的な隊歌は、才能のある隊員がいないと生まれてこないが、流行歌の替え歌ならば、比較的容易に作ることができる。例えば、「あすか基地の歌」は私が作詞した。

♪シールの岩に カタバが吹いて

 ユキドリ啼いて トウガモ舞って

 ブライド湾に 砕氷艦の

 便りもうれし あすか基地

 シールの岩に カタバが吹いて

 ユキドリ群れる あすか基地

シール岩とはあすか基地のランドマークとなった露岩。カタバとは南極特有の斜面下降風。ユキドリとトウガモ(トウゾクカモメ)は南極の野鳥である。

「あすか基地の歌」を南極の同窓会でもうたった。下手なスピーチよりもずっと会は盛り上がった。

「イトウの会の歌」もそのうちに作ろう。