212話  63歳の年間100匹


 2012年のイトウ釣りの目標は例年とおなじ「100匹・100p」であった。なかでも4回目の年間100匹をどうしても釣っておきたかった。私は63歳である。足で稼ぐ釣り師の私にとって、100匹釣りは、それだけの距離を歩くということだ。歳をとればとるほど、100匹釣りは困難になる。長年達成できなかったので、もう無理かとあきらめかけたが、ことしは万難を排して挑戦した。

中小河川が舞台であるから、とにかく広いエリアを歩いて、ルアーを投げ、獲物を得なければならない。それだけに、河畔林の草木があまり伸びていない6月末までに、できるかぎり多くのイトウをキャッチしておかなければ、100匹には到達しない。

私は自分の探る河川を3本と決めた。ホームリバーと、あと2本の川。これらを、水位、濁り、水温などの状況に応じてとっかえひっかえ渡り歩き、釣りまくる。もちろん釣り師は私だけではないので、だれかとかち合う事もある。そんなときは、転進を余儀なくされる。それでも長年の経験で、週末にこういう順番に釣り場を廻ると、だれともバッティングしないというコツをつかんだ。

もちろん先客が入った川に直後に踏み込んだら釣れない。しかし一晩寝かせたらまた不思議にイトウが湧いてくることもある。ちなみに、二日つづけて同じ釣り場を歩いてみたら、二日目によく釣れたという経験もある。

7月の声を聞くと、イトウ狙いの釣り人などわずかしかいない。しかもたいていは友人知人である。情報交換をして、魚が濃いとか薄いとか教えることもある。原野の川は、うっそうとして踏み込むことをためらうような状態になるので、私がほぼイトウを独占することになる。

夏は冷涼な宗谷といっても暑くなる。水温が上がり、水位が下がり、モップみたいな汚い藻が繁殖して、魚が姿を消す。そんなときは、お天気の神さまに雨乞いをする。雨がまとまって降ってくれると、川がリセットされる。ドドッと水位が一気に2mほど上昇し、それが数日かけて引いてくると、ササ濁りの最高の川になる。これがいつもの川なのかと驚くほど、魚が元気に泳ぎまくり、ルアーにガンガン当たってくる。

夏の終わりころ、川中でケータイが鳴った。

「活性が高くてすごいですよ、もう6匹釣って、おなじくらいバラシました」若い釣り友からの情報だ。

「こちらもそんな具合だよ。ところで今どこにいるの?」と聞くと、なんと私と同じ川の1qほど上流にいたのだ。

8月になると、以前は釣果ががくんと落ちた。川釣りのシーズンとはいえないし、しかたがないとあきらめていた。しかし、8月にイトウが集まっている川があることがわかってきた。他の川と比べて、とりわけ水温が低いとか水量が豊富だとかいうわけではない。小魚が豊富なのか、なぜだか分からないが、イトウがいるのだ。そこに毎週通って釣果を積み上げた。

 そして、9月。川をリセットするような大雨は降らなかった。気温もこれが9月かとおもうほどの30℃近い高温だ。それでもイタドリが小道を塞ぎそうに垂れ下がった農道をかき分け歩いて、せっせと川に向かった。ことしはまだヒグマ情報があまり伝わってこない。ヒグマにばったり遭うとしたら農道や林道だ。相手が自由に動ける道で襲われたらひとたまりもない。しかし川に滑り込んでしまえば、私も対等とまではいかなくても、上手に歩き、クマスプレーなどで対抗できるとうぬぼれている。私は川の人で、川が私のリングだ。

 イトウ100匹を目標にして、513匹、632匹、725匹、820匹を釣り、9月上旬ついに10匹を釣って、2003年以来の年間100匹を達成した。まだことしの納竿まで2ヶ月以上の時間がある。これからは、狙いをメーターイトウに振り向けて、1匹でもいいから釣りたい。ひとシーズンの「100匹・100p」が叶ったら、私にはもうイトウ釣りに未練はないだろう。