188話  絶対ポイント


 日本ハムのダルビッシュ投手は、最近絶対エースと呼ばれている。チーム一の人気、球の圧倒的威力、勝ち星の勘定できるエースという意味の絶対だろうか。私には、イトウ釣りで「絶対ポイント」と呼ぶ釣り場がある。どんな日もイトウが居ついて、釣果を計算できる場所だ。

 絶対ポイントはどんな場所なのか。そこは豪壮な大場所ではない。ありふれた小場所である。「居るかもしれないから、探ってみようか」と思う程度の場所である。

瀬が岸とぶつかって比較的水深の深い渕頭を形成している。場所の長さは10m、幅はわずか2mほどで、岸から張り出したヤナギの下にルアーを落とすと、自動的に流れに乗って、コースをたどる。魚はえぐれの中で目を光らせていて、かならず同じところで食いつく。

 私はかならず下流側の水中に立っているので、ヒットするとイトウが手前に猛然と突進してくる。それをかわしながら、一、二と追い合わせをくれる。一連の流れが、スムースなので、まずバラシがない。イトウはそうとう暴れるが、30秒もすると落ち着いて、容易にタモ入れができる。

 ことしは8月上旬現在でイトウを53匹釣ったが、そのうち5匹が絶対ポイントで釣ったものだ。8380767455pとサイズもまずまずである。一番短いスパンでは、中2日で新しい個体が居ついていた。あまり釣り人が立ちこまない川なので、ほぼ私が独占していると思う。こういう川は他人には教えられない。

 この川の前後1キロほどの流域でこれほど居つき率の高い場所はないので、よほどイトウが好む環境にあるのだろう。平均してドロンとした流速の乏しい川で、ここだけが軽く波立ち、いかにも酸素が満ちている。小魚の通り道なので、えぐれに隠れて奇襲できる。外敵からは完璧な安全を確保できる。こういったイトウには居心地のいい場所なのだ。

 釣りでコンスタントな釣果をあげるには、自分独りの絶対ポイントをもつことである。めったに先客が訪れない到達困難な場所、誰も見向きもしない場所、大場所の中のピンポイントなどである。こういう絶対ポイントを3つも知っていれば、一日竿をふってボウズを食らうことはまずない。

 いまイトウ釣り夏の陣の真っ最中である。水温は高く、渇水ぎみで、当然ながらイトウの食いは渋い。私はその日の天気と相談しながら、午前中に二本のロングルートを歩く。そこでイトウが出れば、いけいけドンドンの気分になるが、釣れないで終わると、とりあえず絶対ポイントを訪れ、1匹釣って態勢を立て直すことにしている。ここで釣れれば、心身ともリフレッシュされて、午後もやる気になる。絶対ポイントでも釣れなければ、あきらめもついて、納竿しても心残りはない。それはコンディションの悪い一日だったのだ。

 絶対ポイントは、子どもの宝の隠し場所とおなじである。自分の大切な品を木のうろの中に隠して、ときどき盗まれていないかどきどきしながら確認に行ったものだ。確認作業を誰かに見られていないか、きょろきょろしてあたりをチェックしたころがなつかしい。

 絶対ポイントは、イトウが居るのが当たり前なので、居ないとイトウの世界に異常が起きたか、だれか他の釣り師に釣られたかどちらかである。いつもの川床に両脚を踏ん張り、祈りにも似たキャスティングで、どきどきしながらヒットを待つ。5回に4回は、ゴンとイトウが食いつくので、喜びと安堵を同時に味わうのだ。むかしは、あちこちの川に絶対ポイントをもっていた。それがどんどん消滅していまは1か所になった。なくなったらどうしよう。