187話  イトウの会夏の宴


 釣り人は、飲み会も好きなのか。イトウの会でも、忘年会と冬の宴、さらに夏の宴とほぼ季節ごとに集まって、会食と釣り話を楽しんでいる。ことしの夏の宴は722日に、南稚内オレンジ通りにある居酒屋・串姫煮太郎で開催した。夏であるから、当然まだイトウ釣りのシーズン最中であるが、ピークシーズンの春の陣が終わってひと息ついたところで、シーズンの折り返し地点ともいえる時期であった。

ことしは、会員8人に加えて会友4人の合計12人が集まってくれた。釣りの楽しみは、計画や実釣だけではなく、お互いの釣り自慢に花を咲かせたり、釣り場や仕掛けなど参考になる情報を聞いたりすることも含む。イトウの会ではホームページを開設して7年目になるが、掲示板に登場する多様なゲストも話題になる。ホームページがイトウの会の会話の基盤になっている。

これだけ魚が豊富に生息する宗谷で、イトウしか釣らないというのはいかにも頑なで歪んだ釣りのようだが、多様な魚種に満遍なく対処していたら、イトウの会は名ばかりとなるにちがいない。

 ことしは、前期にメーターオーバーのイトウを釣った大村と佐藤が主役だった。メーターイトウの写真アルバムが廻されると、賞賛やら嫉妬やらのにぎやかな声がつづいた。大村はメーターイトウが伸ばしたフックを持参した。たしかにトリプルフックの1本は完全に伸びきっていた。

「メーターを釣った道具は、全部殿堂入りにすべきだよ。おれなんか、竿(のちに折れて使用不能)も糸もルアーも記念に残してある。メーターは次にいつ釣れるかわからないから」と言ったのは私だ。

 川村はイトウの会オリジナルのグッズを発表した。Tシャツ、キーホルダー、ステッカーで、イトウのマークにJHPAのイニシャルがはいっている。川釣りをやる人びとは、シャイで控えめな性格が多く、べたべたと広告をまとって釣りをする者は少ない。これはなにかと派手な磯釣り師と対照的である。それでも密かに連帯の証であるロゴを身につけるのはわるくはない。

会はシャンペンの乾杯ではじまった。あとは、ビール、焼酎、ウイスキー、ソフトドリンクなどさまざまだ。料理がつぎつぎにやってきた。私は酔うと料理に箸をつける事を忘れてしまう。そのため胃にはアルコールばかりが入って、いっそう酔いがまわる。悪い癖だ。しかし酔っ払っているのは、私だけではなかった。みな幸せそうな表情でなにやらしゃべり、あまり他人の言葉は聴いていないようであった。

同好の会のよいところは、職場の役職とは無関係なことである。年齢と釣り暦には留意するが、最大の敬意は熱中度にたいして払われる。私が会長でありつづけているのは、私がいまだに一番イトウに熱中しているからだ。

楽しい夜は更けるのが早い。あっという間に日付が変わる時刻になり、一次会はお開きとなった。私は二次会まで身体がもたないので、ここで退場した。しかしエネルギーを持て余す若者は、その後も更に飲む、ラーメンを食うなど暴飲暴食をつづけ、一番遅い者は午前3時まで街にいたそうだ。

私は4時にはリセットされたように目覚め、週末の川に繰り出した。しっとりと濡れた湿原を歩くうちに、前夜の酒宴のことは忘れ、釣りに集中していった。イトウ釣りシーズンの後期はもう始まったのだ。