170話  釣り資料


 秋が深まってことしはあと何ヶ月、何日イトウ釣りができるだろうかと数えるころになると、いつも釣り日誌や、釣果リストを持ち出して、どこの釣り場で竿を振ればいいか思案する。もちろんそのときの気象情報、川の水位も考慮に入れる。とくに大事にしているのは、過去5年間の釣果リストである。例えば、去年おととしの同じ頃の釣果などは、眼を皿のようにしてチェックしている。それを基礎にして、釣行をするとほぼまちがいなく釣れるからだ

 釣り日誌には、コース、入釣から車に帰還した時間、牧草の刈り取り状況と河畔のヤブの濃さ、川の水位、清濁、水温、釣れたらその場の見取り図、ファイトと魚体の印象などが書かれている。この日誌が15冊ある。

釣果リストには、イトウの番号、日時、天気、水温、釣り場、体長、使用ルアー、掛かったフックの位置、積算体長、平均体長が書かれている。リストは17年間分ある。これだけでかなりのことが分かる。

イトウの写真アルバムもある。最近ではどんな小さなイトウでもきちんと撮影して、魚体、頭部のアップ、釣れた場所を記録に残している。アルバムには、ほんのたまに家族や友人の写真なども貼ってあるが、90%はイトウばかりだ。もしかして、きょう釣ったイトウが、過去に釣ったイトウと同一個体ではないか、などと検索照合するのもたのしい。

これらの資料が、過去に出版した2冊の本と、現在のイトウの会ホームページの「イトウおじさんの話」の材料にもなっている。どおりで話のネタが尽きないわけだ。

いっぽう、私は他の釣り人の情報はあまりあてにはしない。誰かがどこかで巨大魚を釣ったからといって、すぐにその釣り場へ行ったりはしない。釣りのスタイルも目標も異なるのだから、あまり参考にはならない。時間と労力の無駄だとおもっている。他人の情報でいい思いをしたことなどほとんどない。

それでも名人達人たちの釣りの仕掛けなどには興味をもっていて、よく見せてもらう。メーターイトウを釣った人びとの仕掛けは、まったく市販の釣り具ということはない。本波幸一さん、チライさん、Fujiさんの仕掛けは、それぞれに個性があって味わい深い。私ですらルアーのフックを換えるなどの最小限のチューンアップはしている。オリジナルだけではなかなか闘えないのだ。

釣りの楽しみというものは、現場で釣りをするだけではない。釣りの前後にもふんだんに味わえる。つぎの週末はどこから、いくつかの川をどういう順番で、どう攻めてみようかなどと思案する喜びは週半ばともなると、いつも感じている。とくに現在は河川情報で川の水位がリアルタイムに分かるので、その増減を頻繁に見て、一喜一憂している。そんなとき、過去のデータはじつに頼りになる。悪い気象条件でもなんとか魚を引き出した例がいくつもあるからだ。

9月の敬老の日、私は過去のデータを頼りに、6時に川に入った。水温12℃で水位も透明度も申し分なかった。ほどなく小渕で54pが飛び出し、すぐ上流の大渕で70p級がヒットしたが、イトウ独特の首振りでフックを外された。さらに遡行すると、回廊状のプールで57pが来た。コースを変えて、もっと上流を攻めると、胸深の渕でヒットした瞬間にすごい勢いで走る魚に当たった。しぶとく闘って引き寄せると、腹にスレ掛かりしていた。これは70pであった。こうして9時にはすでに3匹のイトウをキャッチしていた。私のいうハットトリックである。こんな釣果に恵まれる日はあまりない。過去のデータさまさまである。