165話  腰 痛


 私はさいきん腰痛に悩まされている。椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症に苦しんでいるわけではないが、一日のうち午後になると、腰部鈍痛と下肢のしびれが出現する。これは、川を歩き回るスタイルの釣りをずっとつづけてきた釣り師には、かなり致命的な症状である。それでもイトウ釣りのかける意欲は強いので、辞める気はもうとうない。

しかし、さすがに気力が充実しても身体がついていかないときもある。そこで、週末の午前中は動く釣りを、午後になって疲れてくると定点釣りをやるルールを自らに課した。

早朝の体調がいいときに、原野に突入し、川に立ちこんで、釣りあがる。あまり深いところでは、下肢に水圧がかかってしびれが強くなる。かつては、胸近くまで沈む深場を得意としたが、もうそんなところに立ちこむことができない。自分の釣りスタイルを変えていかなければならないのが悔しいが、それが加齢現象ならしかたない。

6月第2週の週末は、土日とも上記のような釣りをした。土曜日は、まず原野に向かって突入した。草木が伸びてきて、見通しも悪くなってきた。シカの足跡を忠実に辿っていく。さすが野生動物だ。確実に安全に川をめざしている。密林で、川に降りた。水は透明で、非常に美しい。ここは、むかし私のさまざまな大物対決があった場所で、いまでもわくわくするのだが、残念ながら水深が浅くなって、大物が居つかなくなった。密林からKの溝にいたる川のジャングルを歩く。どこで魚が出るかわからないので、緊張が解けない。Kの溝には、古い排水路の残骸が残っているが、もう水は流れていない。Kの溝プールは、この流域一番の渕で、魚種を問わなければ必ずなにかヒットする。この日は、3投目の遠投でグーンと竿が曲がった。魚の動きが鈍で、イトウだと分かる。69pのまずまずのイトウで、うれしかった。

つづいて原野の釣りを実行した。廃道寸前の道に車を突っ込んでいくので、ボディは木の枝葉にこすられて傷だらけになる。幸い地形は熟知しているので、入り口から何キロで駐車スペースがあるか、そこから川はどの方角にあるかを知っている。忍者のように、川に到達する。ボディコンと名づけた川のくびれがある。そこが深くてイトウの付き場になっている。確信をもって第1投で63pを引き出した。

あまり川を歩きつづけると、腰痛が増すので、あっさり車に戻って、昼食の弁当を食べた。カッコウが鳴いている。午後は、ずっと下流の定点釣りをやったが、魚信はなかった。温泉に浸かって疲労をとり、あっさり納竿とした。

日曜日は、またジャングルに突入した。川が減水し、ほぼ川中を歩けるのがいいが、川の水位が下がると、川そのものの規模が小さくなり、大魚は下流へ移動してしまう。朝の静寂に身を任せて、キャストしては移動し、またキャストをくりかえす。ぬるりとした珈琲ブラウンの水は、音もなく流倒木にまとわり、渦をまき、流下していく。とあるせせらぎの下で、軽快にイトウ50pが出た。想定外の場所だったので、うれしかった。

時間の経過とともに、できるだけ動かない釣りに切り替えていく。その日は、直線化された中流のポイントで、大きなルアーにえらそうに33pの中学生が食いついて、飛んできた。

夕方になると、もう歩く元気がないので、大河の定点釣りで締めくくる。釣れなくてもいい、釣れたらうれしいとおもいながらキャストを繰り返したが、やっぱり釣れなかった。

土手道を上がって、待避場所に停めておいた車の左後輪がパンクしているのに気づいた。がっかりである。しかし、私はタイヤ交換だけはどんな場所でもやる自信がある。湿原の中でもジャッキを安定させるように、金属板まで積んでいる。タイヤを交換したあと、あわよくば稚内のタイヤ屋で、今日中に修理をしてもらおうと、急いで帰った。最後はあまり腰によい作業ではなかった。