153話  モバイルPC


  去年の初冬にモバイル・パソコンを購入した。あまり量販店の店頭には並んでいないpanasonicLet noteという機種である。なぜそれに決めたかというと、ある編集者が「プロはみんなpanasonicですよ」と自信を持って言ったからだ。本体は1.6kgで、画面は14インチ、シルバーの外観はいたって地味だ。プロ仕様だけあって、くだらん遊びソフトはほとんどインストールされていない。文章を書き、表を作り、送受信し、プレゼンテーションをするのに特化したパソコンなのだ。しかも衝撃耐性と防水対策もほどこされている。これにドコモの携帯端末をつけた。定額料金制だ。これでFOMAの携帯電話が通じるエリアであれば、概ねサクサクとスピーディーにデータ通信ができる。

 モバイルPCは営業マンの必須アイテムであって、当院に出入りする製薬メーカーのMRさんたちはみんな持っている。稚内のような地方に来ても、モバイルPCがあるばかりに、日々の仕事内容を本社に報告しなければならないのはまことに気の毒だ。

 私はモバイルPCをどう使っているのか。メールの送受信、ホームページのチェック、DVDの鑑賞、そして原稿書きである。出張中のホテルの個室でもJRの座席でも仕事ができて、本当に便利だ。

以前は列車のなかで、パソコン作業をしている乗客を見ると、スタイリッシュなサマに憧れながらも、なんで移動中まで仕事をしなければならないのかといぶかっていた。ところが、自分もモバイルPCをやるようになると、ガタンコトンと列車の振動を感じながら、案外と原稿書きがはかどるのだ。窓の景色がつぎつぎと変わるのも良い刺激だ。ワゴンサービスでコーヒーを飲んだり、空腹になると弁当を食ったりできるのも心地よい。おそらく観光客は移動中にモバイルPCなどやらないだろうが、仕事で出張することが日常生活になると、乗り物に乗って移動している時間は貴重である。単に揺られているだけなら、すぐに眠くなるが、作業に集中しているとそれがない。

私は携帯電話のメール機能はまったく苦手で、パソコンでメール作業をする10倍の時間がかかる。子どもたちがやっているように片手でメールを書くなんてまったくできない。ところがモバイルPCのキーボードであれば、若干小さいがほとんど不満がない。

私には夢がある。定年退職したら、モバイルPCと釣り道具をもって、世界サケマス釣り紀行をやるのだ。もちろんこうした先人はいて、本も出版されている。しかし、同時性に釣り情報を発信している釣り人はいるだろうか。もちろん世界各国の通信環境はそれぞれ異なるので、どこでもできることではないが、アメリカ、英国、オーストラリア、ニュージーランドあたりならモバイルPCを使って十分に可能であろう。

いま南極セールロンダーネ山地で地質調査に活躍している相棒の阿部幹雄から、メールと衛星携帯電話がうちに届いた。こういった通信は、データであろうと音声であろうと、地球上のどこからも可能な時代になった。遥か15000qの彼方から送られてくる、日本国内とすこしも変わらないデータや、タイムラグがあるけれどきわめてクリアな音声には文明の進化をあらためて感じ入る。

こころの洗濯をする釣りに、最新の通信機器を使用することは邪道というひとがいるかもしれない。しかし現実にイトウ釣りをしていても、釣り仲間から即時に携帯で情報が飛んでくる。電話をもらって、釣魚と抱っこ写真の撮影にすっ飛んでいったこともあるし、その逆もある。通信機器が釣りには便利で、有効であることはまちがいない。私が宗谷でイトウ釣りをするにはモバイルPCがなくてもよいが、遠くから遠征してくる人びとには、役立つであろうとおもう。イトウ釣りは、一部の深山幽谷でなければ、だいたいは通信環境の良い湿原でやるものだから。